サッカー詐欺の横行するアフリカ

どれもシナリオは同じだ。

未承認のサッカー学校で、コンペが開催される。そこにやってきた“代理人”を名乗る人物が、「お宅の息子さんにはとてつもない才能がある、欧州の名門クラブを紹介する」と近づき、その家族に渡航費・滞在費と銘打って大金を請求する。第二のエトオを夢見、天国にも昇る気分で欧州の地を踏んだ直後、いくつかのクラブの入門テストを受けるものパスできず、そのうち自称代理人はドロン(テストさえ受けないまま置き去りにされるケースも)。やがて少年を襲うのは“不法滞在”の地獄の日々だった…

このようなサッカー詐欺の犠牲となったアフリカ出身の若者を世話するため、パリに「フット・ソリデール」協会が設立された。協会では、毎年フランス国内で200人以上の若者を保護し、当事者の刑事告訴手続き、フランスの滞在許可申請、里親さがし、就職先の斡旋や就学、さらにはプロチームへの入門テスト参加に向けたヘルプなどを行なっている。大半は17歳~18歳のティーンエイジャーだが、中には13歳の未成年も含まれるという。

どうしてこのような詐欺が横行し、なぜたくさんの犠牲者が出ているのか。その理由はいくつか考えられる。

まず第一に、自国のサッカー連盟より厳しく取り締まられている欧州クラブにとって、若いアフリカ人選手を呼び寄せて入門テストを受けさせるのが非常に困難であるという事実がある。まず選手の当該国に位置する大使館に2ヶ月の滞在ビザの発行を申請するが、その選手の往復航空運賃を負担するのが大前提である。もしも選手が16歳以下の場合、選手の親権者も同伴させ、滞在中の生活や仕事の面倒も見なければならない。そして入門テストにパスした場合は即座に契約、にもかかわらず契約期間中に才能が開花しなかった場合は、サッカー以外の就職の道を提供する義務がある。

1970年から2005年まで、ナント(フランスリーグ1)のスポーツディレクターであったロベール・ブジンスキー氏によれば、かつてまだ育成センターがなかった時代、フランスのプロチームも、上記のような費用負担や煩雑な手続きを避けるため、自称代理人が連れてくる飛び入りのテスト生を受け入れていたという。もちろんクラブ側には、犯罪に加担しているという認識はこれっぽちもなかったろう。クラブ側が判断基準にしていたのは、その選手の才能、別の言い方をすれば、その選手がやがてたっぷりの移籍金を捻出するだけの逸材かどうか、その点のみだ。

そうなのだ。たった一握りのケースだが、サクセスストーリーとなった場合、クラブにとっても、代理人にとっても、選手にとっても、膨大な報酬が待っているのだ。ヌーシャテル・ザマックス(スイス1部)に入団したとあるアフリカ人選手は、CFバーゼル(スイス1部)を経て、3年後にトッテナム(イングランド・プレミアリーグ)に移籍するまでに、価値が実に100倍以上に膨れ上がったという。

つまり、非常に貧しいアフリカの地では、プロのサッカー選手になるということは、貧困から抜け出す“最後の砦”であるという認識が高い。そして、詐欺にひっかかるのは、概してその地区では「けっこうサッカーが上手い」ことで有名な少年の家族だ。少年たちはみな口をそろえて、「詐欺の話は聞いたことがある。でも自分には才能があると思っていたから、まさか詐欺だとは思わなかった」と話す。サッカー・ドリームを夢見ながら、無心に練習にはげむ少年たちの弱みを利用した、極めて卑劣な手口だと言える。

最後に、借金をしてまで大金を工面した貧しい家族や親族からのプレッシャーがある。もう手ぶらで国に帰ることは許されない。パリ・サンジェルマンへの入団を約束されたにもかかわらず、フランス入国直後にパリ郊外のホテルで置きざりに遭った少年は、サッカーとは程遠い生活をしながら、自分の食事を減らしてまでもお金をためて、自分の名前の入ったチームユニフォームを作り、家族に送った。だから母国では犯罪が露見しない。だから新たな犠牲者が増えてしまう。 凡人には理解できないほどの巨額の金が動くサッカービジネス。その偽りの輝きに群がる自称代理人と夢見るサッカー少年。その華やかさに誰もが目を眩ませている限り、この悪循環の鎖が断ち切られることはないのだろう。