オメルタ omerta

フランスパリ政治学院の名誉教授であり、政治学院財団の会長(1月4日に辞任)であったフランス屈指の憲法研究者・政治学者のオリヴィエ・デュアメルが、明日2021年1月7日に発売の義娘カミーユ・クシュネルの告白本『ラ・ファミリア・グランデ(仮題:偉大なるファミリー)』のなかで近親相姦を暴露された。カミーユの双子の弟「ヴィクトール(仮名)」が14歳のころから数年にわたり、義父オリヴィエ・デュアメルからの性的被害を受けたという。登場人物たちの多くがフランスの政界や上級社会で名を馳せる著名人であることからも、この告白本がこれからどのようにフランスを震撼させてゆくのか想像に難い。時効は成立しているにも関わらず、他の被害者がいないかどうかの調査を含め、検察による予備審査が開始する。

さまざまな記事がセンセーショナルにこの暴露を取り上げるなかで出逢ったのが「オメルタ」という言葉だ。邦訳すると「沈黙の掟」または「血の掟」となるようだ。

血の掟(ちのおきて、:Omertà)とは、シチリアマフィアにおける約定。沈黙の掟[1]オメルタの掟[2]などとも言う。マフィアのメンバーになるための誓いをするとき、互いの親指に針を刺しを出して、それを重ね血が交わることで一族に加わったとする儀式を行うことからこの名が付いた。俗にマフィアの十戒とも呼ばれる。≫(Wikipediaより引用)

オリヴィエ・デュアメルは、自分を頂点にして集まる人々を、親しみを込めて「ラ・ファミリア・グランデ(偉大なるファミリー)」と呼んでいたという。「ヴィクトール」に対する彼の性的暴行の事実は、実父のベルナール・クシュネールも、2017年に亡くなった母も知っていた。それだけではない、「ラ・ファミリア・グランデ」の一員だった近しい人々全てが、暴行の事実を知りながらも見て見ぬふりをしたとカミーユは告白しているようだ。その数は数十人レベルではない、数百人にのぼるという。

「沈黙の掟」の鎖にがんじがらめになり、恐れおののきながらも告白本の出版を決意したカミーユ・クシュネールと被害者「ヴィクトール」の勇気に敬意を表したい。

このニュースを目にしたときの居心地の悪さは、渡仏して間もないころに偶然テレビで見たドグマ95の鬱映画『フェスタン』の、尋常でないほどの、見るものの心を内側から蝕むような負の感情を思い出させた。